今月の花(十月) 柘榴
すこし皺のよった六枚の薄い花びらを持つ朱赤の柘榴の花を見かけたのは、夏の初めのことでした。五cmほどの小さな花は色の鮮やかさで遠くからでも目につきます。花弁のふちが白い花、一重の他に八重に咲く種類もあります。つやつやとしたやや長い楕円形の青い葉をつけています。
秋になると最後は葉が落ち柘榴は丸い実をむすびます。花が終わったあと萼は成長し、やがて実になって下がった先にそのままついている萼片が柘榴の実を他の実と見分ける特徴となります。
園芸種でない柘榴の枝の棘に注意しながら実を手に取ると、想像しているよりもはるかに重いのです。それは中に詰まった種の多さからくるもので、この種が熟するとやがてぱっと口を開けたように割れ、中から薄い膜に守られていた小さな赤い種がどっと顔を出します。その数は何個あるのでしょうか。
柘榴は安産の神、鬼子母神と密接な関係があります。その由来のひとつはぎっしり詰まった種。子孫繁栄の象徴と言われ、子供を抱いた鬼子母神像は片手に柘榴を持っています。
イタリアの教会の薬局で、当時日本にはなかった柘榴のシャンプーを買ったことがあります。柘榴とシャンプーの結びつきに興味をもち質問すると柘榴の実は古くから世界各地で薬として用いられ、女性の健康に役立つポリフェノールが多いからという答えが返ってきました。赤い種の周りの液体はグレナデンシロップを作り食用にもなるので、髪にもよさそうな気がして買うことにしました。爽やかでどこか甘い香りのシャンプーでした。
毎年の秋の花展では枝や花々がそれぞれの形や色を競っていけられます。ある年のこと、水をたっぷり張った大きなガラスの水盤に、葉を一枚だけつけた枝に口をカッとあけた人の拳ほどの柘榴の実を二個配したシンプルな作品が目を引きました。それは当時九十歳を迎えた先輩の作品でたいへんな生命力を感じました。今、105歳、年末のお正月のお花の稽古は今も責任をもって指導なさるそうです。あの柘榴の実の表情はいけた人のエネルギーにも重なるのでしょうか。
元気をくれる植物はたくさんありますが あやかりたいと思って見直した植物のひとつ、それが柘榴です。(光加)